私は冴えないアラサーで、副業としてブログなどをやりつつも、本業はソフトウェア開発会社に勤めるサラリーマンです。主にクラウドのビジネスをしている中規模の会社で、業績はそれなりでしょうか。以前はSEでしたが、転職してPM・営業方面のことも任されるようになりました。あまり人付き合いが得意ではないのでコンピュータ関係に打ち込んできたこともあり、営業関係の人付き合いはどうも苦手としております。
これは私が以前居た会社での話で、営業のK君(仮名)に関するエピソードです。この会社はオフィスソフトの作成と販売を手かげていました。廉売されるようなソフトではなく、ニッチな業界の企業から受注して作る予算管理ソフトの作成と販売が主なビジネスでした。K君は新卒SEとして僕のひとつ下で入社してきたのですが、どうも作業関係の覚えが悪いのと、口が達者で容姿が良かったこともあり早々に営業に転属となりました。僕が当初プログラミングを指導していたので、話す機会も多かった後輩です。営業はフロアが一つ違うだけで談話室や喫煙所では会うことも多く、転属になってからも割と仲良くしていました。ふたりともガンダムが好きという話で色々と盛り上がったものです。
私がSEとしてステップアップし、設計やスケジュールについて営業と折衝する会議に参加する立場になった時に、K君は既に営業部門の若手のホープとなっていました。営業の人に聞けば、契約は取ってくるし先方を丸め込むのも上手い――という評判でした。それを聞いて営業に転属になって良かったな……と当初は思っていたのですが、それから3年ほど経った後、K君は唐突に会社を辞めてしまいました。
僕は結局本人から詳しい事情は聞けなかったのですが、どうも女性関係のトラブルがあったようです。この会社は上にも述べたように、ニッチな業界でのオフィスソフトを販売しているのですが、基本的に得意先の事務担当者は女性であることが多い業界だったのです。聞けば、K君はとりあえず取引先の事務担当者で、自分がイケると思った女性には、片っ端からアプローチを掛けるような男だったそうです。それで契約を取ってきたり設計変更を丸め込んでくれていたと思うと僕も言葉がありませんでしたが、実際にはそのような枕営業的な側面もあったと聞きます。
実際、彼はかなり上手くやっていたように思います。そのトラブル以外は完璧に仕事をこなしており、社内の評判も良好でした。実際、女性だけではなく、各取引先の男性や役員のような方にも好かれており、私が実作業である会社に彼と一緒に行った際も、彼のおかげでスムーズに作業に打ち込むことができた経験もあったからです。
そのトラブルの顛末はと言うと――
この会社では、年に一回、製品のコンベンションやお得意様や関係会社との懇親を深める為に、都市圏の小ホールを借り切ってパーティのようなものを開いていました。そこに勿論、K君のような営業は出席して懇親を深め広義の営業活動を行う訳です。ただ、懇親を深めるのは会社とお客様だけではありません。ニッチな業界ですから、お客様同士も知り合いになるわけです。そこに運悪くK君が手を出した女性が複数集い、結果として会社の総務に抗議が来るような事態になってしまったのですね。
ただこの状況で興味深かったのは、K君が手を出していた女性が「K君に蔑ろにされた」というニュアンスで抗議をしてきたわけではなくて、K君がこのパーティにたまたま出席していた某団体の若手女性職員にやたらとご執心(イチャついていたらしい)だったことに各位が腹を立てた結果――抗議が来たという部分です。つまり、K君はこのパーティで澄ました顔をしてやり過ごしていれば、特に問題は起きなかったのです。それもそれで一抹の恐ろしさを感じるような状況ではありますが。
会社としては厳重注意で済ます予定だったらしいのですが、K君はあっさりと辞めてしまいました。まぁ――ちょっと女性が好きすぎるという点を除いては、非常に良いヤツだったので、今もどこかで元気にしているとは思います。営業マンが粉骨砕身で頑張ってくれるのは何よりですが、それは確実に公私のラインを引いた上で行ってもらいたい――というのが、私がこの事例から感じた教訓のようなものですね。